子どもが巣立ったり、パートナーと別々の暮らしになったり。60代でひとり暮らしになった方から「これから何を楽しみに生きればいいのか分からない」という声をよく耳にします。この記事では、60代からの一人暮らしを楽しむための時間の使い方と、その土台になるお金の見通しの立て方を、生活費の実数も交えて整理します。私はまだ40代ですが、家計簿をつけ続けてきた立場から、「これだけ押さえておけば残りは自由に使える」という線引きをお伝えします。
さきひとりの時間は、寂しさよりも先に「自由」が来ます。
60代からの一人暮らしは選び直しの時期
まず知っておいてほしいのは、60代・70代の一人暮らしはもう珍しい選択ではないということです。内閣府の令和7年版高齢社会白書によると、65歳以上の女性のうち一人暮らしをしている人の割合は、1980年の11.2%から2020年には22.1%(およそ5人に1人)まで増えています。2050年には29.3%になる見込みです。同年代の女性の5人に1人が同じ暮らし方をしている、と考えると少し気が楽になりませんか。
そして60代は、住まい・持ち物・お金の使い道・人づきあいを、一度まとめて選び直せる時期でもあります。家族の生活時間に合わせて夕飯の支度をしていた人が、その必要から解放される。広い家を維持するかどうかを、はじめて自分の都合だけで決められる。これは失うことではなく、決定権が自分に戻ってくることです。
60代からの一人暮らしは「減らす」ではなく「自分の基準で選び直す」段階です。
逆に言えば、選び直しをしないまま現役時代の生活サイズを引きずると、家も持ち物もお金も少しずつ重荷になります。まずは「これは自分が本当に望んで続けていることか」を、住まい・食事・つきあいの3つで一度点検してみてください。
一日の流れを自分で決められる良さ
一人暮らしで一番よく聞く悩みが「一日が長い」「時間を持て余す」というものです。ただ、これは時間が余っているというより、これまで家族や仕事に決めてもらっていた一日の枠組みがなくなっただけ、という場合が多いのです。枠は自分で作り直せます。
おすすめは、朝と夕方に「動かさない予定」をひとつずつ置くことです。朝はカーテンを開けて15分歩く、夕方は5時に台所に立つ。この2つが決まると、あいだの時間が「空白」ではなく「自由に使える時間」に変わります。予定を細かく埋める必要はまったくありません。むしろ、ぎっしり詰めるとしんどくなって続きません。
食事も、ひとり分だからと手を抜くとかえって気持ちが沈みます。わが家では中学生の息子がいるので大鍋料理が多いのですが、ひとり分なら逆に、少量でも好きな食材を選べる強みがあります。旬の魚を一切れだけ買う、いい味噌を選ぶ。量を減らして単価を上げるのは、一人暮らしだからできる贅沢です。
そして、一日の終わりに「今日やったこと」を一行だけ書き留めておくと、時間の使い方が自分で見えるようになります。手帳の隅で十分ですよ。


お金の見通しを立てておく
楽しみの話をするうえで、避けて通れないのがお金です。ここをぼんやりさせたままだと、何を買っても心のどこかで不安が残ります。逆に、数字の見当がついていれば、堂々と楽しめます。
総務省の家計調査によると、65歳以上の単身無職世帯の1か月の家計はおおよそ次のような形です(2024年平均・執筆時点で確認できる直近の数値)。
| 項目 | 1か月あたりの目安 |
|---|---|
| 消費支出 | 約15万円 |
| 可処分所得(手取り) | 約12万円 |
| 差額(不足分) | 約3万円 |
つまり、平均的には月3万円ほどを貯蓄から取り崩す形になります。年間で約36万円です。この数字は持ち家か賃貸かで大きく変わりますし、あくまで平均なので、自分の場合はいくらかを一度出しておくことが大事です。
やることはシンプルで、通帳とクレジットカードの明細を12か月分そろえて、毎月必ず出ていくお金(家賃・住居費、電気ガス水道、通信費、保険料、サブスク)を書き出すだけです。ここで出た合計が、あなたの暮らしの「動かない部分」になります。
年金の見込額は、日本年金機構の「ねんきんネット」で自分の記録から確認できます。
下げる余地が一番大きいのは、この動かない部分=固定費です。とくに通信費と使っていないサブスク、それに保障内容を見直していない保険は、一度手を入れると毎月ずっと効きます。手順は固定費見直しの手順まとめに整理してあるので、どこから着手するか迷ったら参考にしてください。
なお、年金の受け取り方や資産の運用については、暮らし方や家族構成で最適解が変わります。この記事では触れません。年金事務所や、公的な相談窓口のファイナンシャル・プランナーに、自分の記録を持って相談するのが確実です。


好きなものを少しだけ良くする
固定費を整えると、月に数千円の余白ができます。この余白の使い道が、60代からの暮らしの満足度をかなり左右します。
私がおすすめしたいのは、大きな買い物より「毎日触れるものを一段だけ良くする」使い方です。毎朝使うマグカップ、寝具、部屋着、包丁、読書灯。使う回数が多いものほど、少し良くしたときの効き目が長く続きます。年に数回しか使わないものにお金をかけても、満足感はその数回で終わってしまいます。
毎日使うものへの数千円は、使うたびに気分が上向くので実感が長く続きます。
流行りものや大型の趣味道具は、置き場所と維持費がかかり、使わなくなったときの負担が大きくなります。
もう一つの考え方として、ものではなく「手間を減らすこと」に使う方法もあります。重い米はネットスーパーで届けてもらう、掃除は月1回だけ人に頼む。60代からは体力の配分そのものが資源なので、ここにお金を使うのは前向きな選択です。
買い替えの候補を探すときは、実際に使っている愛用品のまとめものぞいてみてください。長く使えるかどうかを基準に選んだものだけを載せています。
人とのつながりをどう保つか
一人暮らしで本当に効いてくるのは、お金より人とのつながりです。ただ、ここでよくある失敗が「友達を作らなきゃ」と気負ってしまうことです。60代から深い友人関係をゼロから築くのは簡単ではありませんし、その必要もありません。
目指したいのは、深い友情より「顔を合わせる回数」です。週に2回通う体操教室、いつもの八百屋さん、図書館の受付。名前を知らなくても、こちらを認識してくれる人が数人いる状態は、想像以上に日々を支えてくれます。用事のついでに人と会える場所を、生活動線の中にいくつか持っておくことが実際的です。
公民館や自治体の生涯学習講座は、月数百円から千円台で参加できるものが多く、続けやすい選択肢です。内容や料金は自治体ごとに違うので、お住まいの窓口の講座案内を見てみてください。
つながりと同時に整えておきたいこと
体調を崩したときに連絡できる相手を、最低ひとりは決めておいてください。自治体の見守りサービスや、電気・ガスの使用状況で異常を知らせる仕組みも各地にあります。楽しみを増やす話とセットで、ここだけは先に手当てしておくと後が楽です。
家族との連絡も、頻度より形を決めておくほうが続きます。日曜の夜に短く電話する、写真を1枚送る。決まった形があると、お互い気を使わずに済みますよ。
50代のうちからできる準備
今50代で、いずれ一人になるかもしれないと考えている方に向けて、先にやっておくと差が出ることを挙げます。
通信費・保険・サブスクを50代のうちに見直します。収入があるうちに下げたぶんは、そのまま毎月の余力として積み上がります。
家族が旅行などで不在の週に、自分ひとりでいくら使うかを記録します。想像より正確な将来の見通しが立ちます。
使っていない部屋の物を減らします。体力があるうちにしかできない作業なので、60代に持ち越さないほうが楽です。
家族と一緒でなくても行ける趣味や場所を、50代のうちにひとつ持っておきます。
特に効くのは手順1です。50代で月5,000円下げれば、60代からの10年で60万円分の余力になります。我慢を増やさずに使えるお金が増えるので、いちばん割のいい準備です。50代の時間の使い方については50代からの暮らしの楽しみ方でも詳しく書いています。
まとめ|時間の使い方を自分で決められる年代
60代からの一人暮らしは、寂しさの話として語られがちですが、実際には一日の流れもお金の使い道も自分で決められる、めったにない時期です。やることは3つだけで、固定費を整えて数字の見通しを持つこと、毎日触れるものを少し良くすること、顔を合わせる場所を生活の中に置くことです。全部を一度にやる必要はありません。今日は明細を12か月分そろえるところから始めてみてください。



ひとり分の食卓に好きな器を並べている方の話を聞くと、こちらまで背筋が伸びます。








