先取り貯金の仕組みをつくる|お金の整えかた教室・第6回

毎月の自動振替を書き込んだ貯金用の通帳

固定費を見直して、食費の枠を決めて、特別費も積み立てはじめた。それでも「気づいたら口座にお金が残っていない」という月は起こります。原因は使いすぎというより、貯める分を最後に回しているからです。第6回は、貯める分を先によけてしまう「先取り貯金」の仕組みづくりをお伝えします。いくらから始めるか、どうやって自動化するか、続かなくなったときにどう下げるかまでを扱います。

のどか

ここまで来たら、あとは手を動かさなくても貯まる形にしてしまいましょう。

目次

先取り貯金は意志ではなく仕組みで貯める

先取り貯金とは、給料が入ったらすぐに決めた額を貯蓄用によけて、残ったお金で1か月を暮らす方法です。逆に「1か月暮らして余った分を貯める」やり方を後取りと呼びます。この二つは、同じ収入・同じ支出でも結果がまるで違います。

後取りが続かないのは、意志が弱いからではありません。手元にお金がある状態で「使わない」と判断し続けるのは、月に何十回も小さな我慢を積み重ねる作業だからです。人は残高を見て使う額を決めます。残高が2万円少なければ、その2万円は最初から無かったものとして暮らせる——これが先取り貯金のいちばん大事なところです。

長く家計相談を受けてきて、貯まる人と貯まらない人の差は収入の多寡ではないと感じる場面が何度もありました。差がつくのは、貯める作業が「毎月の決断」になっているか、「一度設定したきりの自動処理」になっているかです。今回やるのは、決断を設定に置き換える作業です。

先取り貯金は、貯金額を増やす技ではなく、使えるお金の見え方を変える仕組みです。

いくらから始めるか

金額の話をする前に、ひとつ順番を確認させてください。第3回の固定費、第4回の食費・変動費、第5回の特別費まで整えてきたなら、毎月の支出はおおよそ見えているはずです。先取り貯金に回せるのは、その支出を引いた後に残る金額です。ここを飛ばして「みんなが貯めている額」から決めると、必ずどこかで足りなくなって取り崩すことになります。

おすすめは、直近3か月で実際に手元に残った額の平均を出し、その半分から始めることです。3か月で平均2万円残っていたなら、先取りは1万円。少なく感じるかもしれませんが、1万円でも1年で12万円になります。そして何より、1年間一度も崩さずに続いた先取り貯金は、その後いくらでも増やせます。

我が家も、夫と二人の暮らしで最初に設定したのは月1万円でした。金額そのものより、「引き落とされても生活が回った」という事実が自信になり、そこから少しずつ上げていきました。

手取りの何割という目安に縛られない

「手取りの2割」「一人暮らしなら3割」といった目安をよく見かけます。方向として間違ってはいませんが、割合はあくまで平均の話で、家賃の水準も家族構成も地域も違えば当てはまりません。手取り25万円の人でも、家賃9万円の単身と、住居費のかからない実家暮らしでは、無理なく回せる額が倍以上違います。

割合の目安が役に立つのは、自分の数字が出せないときの仮置きとしてだけです。手取りの1割から始めて、3か月間クレジットカードの残高が増えず、生活費口座から一度も貯蓄を戻さずに済んだなら、その金額は適正です。逆に一度でも戻したなら、割合が何であれ高すぎます。

判定の基準は「貯めた額」ではなく「一度も取り崩さずに済んだか」です。

金額を書き込んだ銀行の自動積立申込書

自動でよける方法を用意する

金額が決まったら、手で移すのはやめます。手動の振替は最初の2、3か月は続きますが、忙しい月に一度飛ばすと、そのまま止まってしまうことがほとんどです。使える手段は大きく三つ、自動積立定期預金、口座間の自動入金・自動送金、そして給与天引きです。

自動振替と積立の設定

いちばん手軽なのは、いま使っている銀行の自動積立定期預金です。毎月決まった日に、普通預金から定期預金へ自動で振り替えてくれるもので、多くの銀行で手数料はかかりません。定期預金なので引き出すには解約の手間が一つ挟まり、その手間がそのままブレーキになります。

もう一段強くしたいなら、生活費の口座とは別の銀行に貯蓄用口座をつくり、そちらへ自動で移す方法があります。ネット銀行のなかには他行から毎月定額を引き落として自分の口座に入れる「定額自動入金」を無料で提供しているところがあり、給与振込口座から自動で吸い上げる形にできます。反対向きの「定額自動送金」は手数料がかかる場合があるので、申し込む前に手数料の有無だけは確認してください。手数料やサービス内容は変わることがあります。

STEP
貯める先の口座を決める

生活費が出入りする口座とは別にする。同じ銀行の定期預金でも、別銀行の普通預金でもかまいません。

STEP
振替日を給料日の翌営業日にする

給料日当日より翌営業日のほうが確実です。残高不足で振替が止まるのを防げます。

STEP
金額を入れて自動積立・自動入金を申し込む

窓口でもアプリでも数分で終わります。ここで決めた額は、次に見直すまで触りません。

STEP
3か月後に一度だけ見直す

一度も取り崩さずに済んだなら増額、苦しかったなら減額。それ以外の月は何もしません。

設定が終わったら、貯蓄用口座のキャッシュカードは財布から抜いて、家に置いておきます。アプリで残高だけ見えて、その場では下ろせない状態が、いちばん続きます。

給与天引きが使えるならいちばん強い

勤務先に財形貯蓄制度があるなら、まずそれを検討する価値があります。給与から天引きされるため、そもそも口座に入ってきません。目的の決まっていない一般財形のほか、住宅資金のための財形住宅貯蓄、老後資金のための財形年金貯蓄があります。

財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄には利子等が非課税になる扱いがあり、両方を合わせて元利合計550万円までが非課税の上限です(保険型の財形年金貯蓄のみの場合は払込額385万円まで)。ただし目的外で引き出すと非課税の扱いが受けられなくなるなど条件があるため、申し込む前に勤務先の担当窓口で自分の条件を確認してください。制度の有無や取扱金融機関は勤務先によって異なります。

社内預金や職場の共済に積立の仕組みがある場合も同様です。天引きは「振替が止まる」ことがない点で、銀行の自動積立より一段確実です。

先取り貯金は意味がないと言われる理由

検索すると「先取り貯金は意味がない」という声も出てきます。これは方法が悪いのではなく、二つの使い方を間違えたときに起きる現象です。

ひとつめは、金額を高く設定しすぎて、月末に貯蓄口座から生活費へ戻しているケース。移して戻してを繰り返すだけなので、当然ながら残高は増えません。これは先取り貯金が効かないのではなく、設定額が生活の実態と合っていないだけです。

ふたつめが、より多い失敗です。先取りした貯金を、車検や家電の買い替え、帰省費用といった支出に使ってしまうケース。これは第5回でお伝えした特別費です。特別費の積立と先取り貯金は、性質のまったく違うお金で、混ぜると必ず崩れます。特別費は「いずれ出ていくことが決まっているお金を、前もって分けて置いてある」だけで、貯金ではありません。

意味がないと言われる先取り貯金の多くは、特別費の積立を貯金と数えていた家計です。ここを分けるだけで、貯金は減らなくなります。

先に分けておくお金は3種類

特別費——出ることが決まっている支出(第5回で一覧にしたもの)

生活防衛費——収入が止まったときのための待機資金

将来のための貯金——使う予定がまだ決まっていないお金

続かないときは金額を下げていい

2か月、3か月と続けるうちに苦しくなったら、迷わず金額を下げてください。先取り貯金でいちばん避けたいのは、金額が少ないことではなく、仕組みごとやめてしまうことです。1万円が続かないなら5,000円に、5,000円が続かないなら3,000円に下げて、設定そのものは残します。

下げることを失敗のように感じる必要はありません。収入が変わる月、医療費がかさんだ月、子どもの進学が重なる年——家計は一定ではないほうが普通です。金額を下げられる仕組みだからこそ、途切れずに10年続きます。

反対に、増やすタイミングは分かりやすい形で来ます。固定費の見直しで通信費が月3,000円下がったなら、その3,000円をそのまま先取り額に足します。第3回でお伝えした「下がった分の行き先」が、ここにつながります。生活水準を上げずに貯蓄だけが増える、いちばん無理のない増やし方です。

毎月の金額を1円単位で最適化しようとしなくても大丈夫です。設定して、崩さずに回っている。それだけで、この回の目的は果たせています。

用途ごとにラベルを付けて分けた貯金用の封筒

貯まったお金をどこに置くか

先取りしたお金の置き場所は、使う時期で決めます。当面使わないからといって全部を同じ場所にまとめると、必要なときに動かしにくくなったり、逆に手軽すぎて使ってしまったりします。

お金の種類置き場所の考え方目安の額
毎月の生活費給与振込口座1か月分+数万円
特別費生活費とは別の普通預金年間必要額の12分の1を毎月
生活防衛費すぐ動かせる普通預金生活費の3〜6か月分
将来のための貯金自動積立定期・財形など生活防衛費が貯まった後の分

順番としては、生活防衛費が生活費の3〜6か月分たまるまでは、預金のまま置いておくのが基本です。会社員で収入が安定しているなら3か月分、自営業や収入に波がある働き方なら6か月分を目安に考えます。この待機資金があるかどうかで、突然の病気や転職のときの選択肢がまったく変わります。

生活防衛費が整った後の資金をどうするかは、非課税制度を含めて選択肢がありますが、これは各家庭の状況と考え方によって答えが変わる領域です。本シリーズでは支出を整えることに絞っており、個別の判断は金融機関や公的な相談窓口でご確認ください。

まとめ|前回・次回

先取り貯金は、貯める額を決める話ではなく、貯める作業を毎月の決断から外す話です。直近3か月で残った額の半分を目安に金額を決め、給料日の翌営業日に自動で移す設定を一度だけして、あとは3か月に一度見直す。苦しければ下げ、固定費が下がったら足す。これで十分に回ります。

前回は、年に数回の大きな支出が家計を崩す仕組みと、その積み立て方を扱いました。特別費と先取り貯金を分けきれていないと感じた方は、こちらを先に読んでください。

第5回:特別費という落とし穴

次回は、ここまでで整えた流れを記録に落としていきます。家計簿が続かない理由と、続く形の作り方です。

第7回:家計簿を続く形にする

のどか

我が家の月1万円は、正直なところ最初は物足りない額でした。それが一度も崩れずに続いたことのほうが、後になって効いています。

手取り25万円なら、先取り貯金はいくらが目安ですか?

割合から決めるより、直近3か月で実際に残った額の半分から始めてください。目安が必要なら手取りの1割、この場合は2万5,000円を仮置きし、3か月間一度も取り崩さずに済んだかどうかで判断します。住居費の水準で適正額は大きく変わります。

ボーナスも先取り貯金の対象にすべきですか?

対象にしてかまいませんが、毎月の先取り額をボーナス前提で高く設定するのは避けてください。ボーナスは支給額が変わる可能性のあるお金です。毎月の先取りは月収だけで回る額にして、ボーナスは「入ったら決めた割合を貯蓄口座へ移す」という別ルールにすると崩れません。

先取り貯金と特別費の積立は、同じ口座でいいですか?

分けてください。同じ口座に入れると、車検や家電の買い替えでお金が減ったときに「貯金が減った」と感じてしまい、続ける気持ちが折れます。口座を分けるのが難しければ、同じ銀行の目的別口座やアプリの仕分け機能でも十分です。

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